なぜインデックス投資が勝つのか:データと理論で解き明かす長期戦略

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インデックス投資とは何か、そしてなぜ注目されるのか

投資の世界で「インデックス投資」という言葉を耳にする機会が、ここ数年でぐっと増えた。金融リテラシーの向上や、個人投資家向けのツールが充実してきたこともあって、特に若い世代を中心にその人気が高まっている。でも、そもそもインデックス投資って何だろう?簡単に言うと、市場全体の平均的な動きをそのまま追う投資手法だ。例えば、アメリカの代表的な株価指数であるS&P 500に連動するファンドを買えば、アップルやマイクロソフト、アマゾンといった大企業の株を全部まとめて持つようなイメージ。個別銘柄を自分で選んで買うのではなく、「市場そのもの」に投資するアプローチだ。

この考え方のルーツは、実は結構古い。1970年代に経済学者のユージン・ファーマが提唱した「市場効率性仮説」や、ジョン・ボーグルがバンガード社で初めてインデックスファンドを一般投資家向けに提供した歴史に遡る。ボーグルは「市場平均を超えるリターンを継続的に出すのはプロでも難しい」と考え、だったら最初から平均を目指せばいいじゃないか、という発想を形にした。それが今や、世界中で何兆ドルもの資産が運用される巨大な潮流に成長したわけだ。

じゃあ、なぜ今こんなに注目されてるのか?一つはコストの安さだ。アクティブファンドだと、ファンドマネージャーが銘柄を選んで運用する手間がかかるから信託報酬が年1~2%なんてことも珍しくない。でも、インデックスファンドなら0.1%以下なんてのもザラ。長期で見ると、このコスト差がリターンに与える影響はバカにならない。例えば、年率6%のリターンを目指すとして、1%の手数料を取られると30年後の資産は約3分の2に減ってしまう。一方、0.1%ならほぼそのまま複利効果を享受できる。こういう数字を見ると、インデックス投資の魅力が分かりやすいよね。

それに、シンプルさも大きい。投資って聞くと、「どの株が上がるか予想しないと」とか「経済ニュースを毎日チェックしないと」なんて思う人も多いけど、インデックス投資なら基本的に「市場が成長する」と信じてお金を預けておけばいい。実際、アメリカ市場を見てみると、S&P 500は過去50年で年平均8~10%くらいのリターンを出してきた。日本だと日経平均のパフォーマンスは少し物足りない時期もあったけど、世界全体に目を向ければ、経済成長の恩恵を受けやすい。そういう意味で、インデックス投資は「人類の経済活動への信頼」をそのまま投資に変える方法とも言えるかもしれない。

インデックス投資の仕組みと理論

さて、インデックス投資の基本が分かったところで、もう少し深掘りしてみよう。まず、なぜインデックス投資が成り立つのか、その裏にある理論を見ておきたい。一番大事なのは「市場効率性仮説(Efficient Market Hypothesis, EMH)」だ。これは簡単に言うと、「市場はすべての情報を瞬時に価格に反映するから、誰もが知ってる情報だけで市場を出し抜くのは難しい」という考え方。もしこれが正しいなら、個別銘柄を分析して平均を超えるリターンを狙うアクティブ投資は、運次第か膨大なリソースが必要になる。実際、プロのファンドマネージャーの多くがインデックスを長期で超えられないというデータもある。

じゃあ、どうして市場全体に投資するだけでいいのか?ここで出てくるのが「分散投資」の考え方だ。ノーベル賞を受賞したハリー・マーコウィッツのポートフォリオ理論によると、リスクを減らすには複数の資産に分散するのが効果的。でも、個人が何十、何百の銘柄を自分で買うのは現実的じゃないよね。そこでインデックスファンドが登場する。S&P 500なら500社、MSCI Worldなら世界中の数千社に一気に投資できる。これで個別企業の倒産リスクとか、特定の業界が落ち込むリスクを大きく減らせる。

インデックスファンドの仕組み自体も面白い。例えば、S&P 500に連動するファンドは、指数を構成する企業の株をその時価総額の割合で持つ。つまり、アップルが指数の7%を占めてれば、ファンドの資産の7%をアップル株に割り当てる。これを「市場加重平均」と呼ぶんだけど、他にも「均等加重」とか「ファンダメンタル加重」なんて方法もある。ただ、一般的なインデックス投資では市場加重が主流だ。理由はシンプルで、市場の動きをそのまま再現しやすいから。

ここでちょっと補足。インデックスファンドとETF(上場投資信託)の違いって知ってる?どっちもインデックスに連動するけど、インデックスファンドは投資信託の一種で、1日に1回しか価格が決まらない。一方、ETFは株式みたいにリアルタイムで取引できる。流動性や手数料の違いもあるけど、長期投資ならどっちでも大差ないことが多い。日本だと「eMAXIS Slim」みたいなインデックスファンドが人気だし、アメリカなら「SPY」や「VOO」みたいなETFが定番だ。

理論的には、インデックス投資って「市場が成長する限り儲かる」って話なんだけど、実はその前提が大事。市場が効率的じゃない場合や、成長が止まっちゃうと話が変わってくる。でも、過去のデータを見ると、特に先進国市場は長期で見れば右肩上がり。日本はバブル崩壊後の失われた30年で苦しんだけど、世界全体で見ればGDPは増え続けてる。この「成長への信仰」がインデックス投資の根っこにあるんだ。

データで見るインデックス投資の実績

じゃあ、実際どれくらい儲かるのか、データを見てみよう。まず、アメリカのS&P 500から。1957年の開始以来、2023年までの年平均リターン(配当込み)は約10.2%。インフレ調整後でも7~8%くらいだ。例えば、1980年に1万円投資してたら、2023年には約60万円になってる計算。年によっては20%下がったり、30%上がったりするけど、長い目で見ると安定して増えてる。

一方、日本のTOPIX(配当込み)だと、1989年のバブル絶頂から見ると年平均リターンは約2~3%と控えめ。ただ、2000年代以降に絞れば5~6%くらいに戻ってくる。日本は経済停滞が長かったけど、それでもマイナスにはなってない。世界全体に目を向ければ、MSCI World指数(先進国中心)の過去30年リターンは年平均7~8%。新興国を含むMSCI All Country World Index(ACWI)も似た数字だ。

面白いのは、アクティブファンドとの比較。S&P Globalの「SPIVAレポート」によると、2022年時点で過去15年間、アメリカの大型株アクティブファンドのうちS&P 500を上回ったのは約12%だけ。つまり、88%がインデックスに負けてる。しかも、これは手数料を引く前の話。信託報酬が1%高いだけで、長期リターンは大きく目減りする。例えば、年6%のリターンで30年運用すると、元本100万円が約570万円になるけど、手数料1%引かれると約430万円。140万円の差はデカいよね。

複利効果も見逃せない。毎月3万円積み立てて、年7%で30年運用すると、元本1080万円が約3500万円になる。40年なら約7700万円。この「時間」が味方につくのがインデックス投資の強みだ。ただ、短期で見ると波がある。2008年のリーマンショックでS&P 500は1年で37%下がったし、2020年のコロナショックでも一時30%超の下落。でも、その後ちゃんと回復してる。この回復力こそが、長期投資の根拠なんだ。

インデックス投資のメリットとリスク

さて、メリットとリスクについても整理しておこう。まずメリット。一番大きいのは低コストさだ。さっきも言ったけど、信託報酬が0.1%以下なんてファンドも珍しくない。これがアクティブファンドだと1%超が普通だから、30年で見ると資産の差が何百万にもなる。次にシンプルさ。銘柄選びに頭を悩ませなくていいし、経済ニュースを追う必要もない。ただ積み立てて放置するだけでいい。日本だとNISAやiDeCoみたいな税制優遇もあるから、さらに効率が上がる。

でも、リスクもある。一番分かりやすいのは市場リスク。市場が下がればインデックスも下がる。2008年みたいな暴落が来ると、一時的に資産が半分になることも覚悟しないといけない。ただ、これはアクティブ投資でも避けられないリスクだし、長期で回復する前提なら問題ないと割り切れる。他にも「トラッキングエラー」ってリスクがある。これはファンドがインデックスに完全に連動しない場合。例えば、手数料や運用ミスで少しズレるなんてこともあるけど、最近の優良ファンドだとほぼ無視できるレベルだ。

あと、過熱感への注意もある。最近はインデックス投資が人気すぎて、「市場が歪んでるんじゃないか」なんて声もある。例えば、S&P 500の上位企業(GAFAMとか)が指数を引っ張りすぎて、バブルっぽくなってるって指摘。でも、これってインデックス投資のせいじゃなくて、市場そのものの動きだから、気にしすぎなくてもいいかもしれない。

リスク管理の方法としては、アセットアロケーションが大事。株式100%だと暴落が怖いなら、債券やREITを混ぜて分散する。リバランスも効果的だ。例えば、株60%・債券40%のポートフォリオを維持するために、株が上がったら少し売って債券を買う。これでリスクを抑えつつリターンを安定させられる。

インデックス投資の始め方

じゃあ、実際にどうやって始めるか。日本でインデックス投資をやるなら、まず証券口座が必要。楽天証券やSBI証券が手数料安くて使いやすい。NISA口座を開けば、年間120万円(つみたてNISAなら40万円)まで非課税で運用できる。次にファンド選び。定番は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」とか「楽天・全米株式インデックス」。信託報酬は0.1%前後で、長期で見ても安心。

積立投資がおすすめだ。毎月決まった額(例えば3万円)を自動で買う設定にすれば、ドルコスト平均法で価格変動リスクを抑えられる。暴落時に安く買えるし、高値づかみも避けられる。運用戦略はシンプルに「買って持つ」。市場が下がっても慌てず、30年、40年と続ける覚悟が大事だ。

日本人ならではの注意点もある。為替リスクとかね。米国株や全世界株に投資する場合、円安だと資産価値が上がるけど、円高になると目減りする。長期的には為替はフラットになるって見方もあるけど、心配なら日本株中心のファンドを混ぜてもいい。あと、税金。NISA以外だと利益に約20%課税されるから、税制優遇をフル活用するのが賢い。

結論

インデックス投資の哲学はシンプルだ。「市場は効率的で、長期では成長する」と信じて、そこに賭ける。短期の値動きに一喜一憂せず、時間を味方につけるのが肝。今後、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が主流になれば、インデックスも進化するかもしれない。既にESG対応のインデックスファンドも出てきてるし、未来の経済成長をどう取り込むかが鍵になるだろう。結局、インデックス投資は「人類の進歩」に投資する行為。その視点を持てば、資産運用がもっと楽しくなるはずだ。

参考文献

  • ジョン・C・ボーグル著『インデックス投資は勝者のゲーム』(Amazon)
  • ユージン・ファーマ “Efficient Capital Markets: A Review of Theory and Empirical Work” (JSTOR)
  • S&P Dow Jones Indices “SPIVA U.S. Scorecard” (S&P Global)
  • “S&P 500 Historical Returns” (Yahoo Finance)
  • “MSCI World Index Performance” (MSCI)
  • Vanguard Official Website (Vanguard)
  • eMAXIS Slimシリーズ (三菱UFJアセットマネジメント) (eMAXIS Slim)
  • 金融庁「NISAとは?」 (金融庁)
  • 日本取引所グループ (JPX) (JPX)
  • バートン・マルキール著『ウォール街のランダム・ウォーカー』 (Amazon)
  • Mike Piper “Oblivious Investor” (Oblivious Investor)
執筆者:ぽこ

資産運用に興味がある恐竜。様々な国や商品に投資。投資歴は長い。基軸はインデックス投資での運用。短期売買の頻度は少なく、長期目線での投資をコツコツと実施。